スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 このままマンションまで手を繋いで歩いていくのかと思うと、ちょっと照れくさいような甘酸っぱいような気持ちになった。

 ふと啓五と視線が合うと、

「陽芽子が俺の味方でいてくれるのか。百人力だな」

 と笑ってくれた。

「ん? どした?」
「あ、ううん。私やっぱり、啓五くんの眼が好きだなって思って」

 そう言うと、視線が合った啓五がさらに幸せそうに嬉しそうに目を細める。だから陽芽子もつられて笑ってしまう。

「啓五くんに見つめられると、みんな恋しちゃいそう」
「それはないだろ」
「あるよー。だって実際、モテるでしょー?」

 啓五は女性にモテる。陽芽子と出会うまで女性に困ったことがなかったことも、環から聞いて知っている。

 確かに初対面だと目線の鋭さは感じるかもしれないが、本来は物腰が柔らかく人懐こい性格であるし、人の話を聞くのも自分の話をするのも上手だ。

 だから話せば話すほどみんな啓五のことを好きになると思うし、陽芽子はその目から意志の強さと男性的な色香を感じる。そう思う人は、陽芽子だけではないはず。

「でも俺、もう陽芽子のものだけど」

 それでも啓五は、陽芽子だけに笑ってくれる。他の人は要らないと言ってくれる。

 感情や思考を読み取る能力と、優しく愛情を表現する色と、未来を見据える力強さをたたえた瞳は、この先ずっと陽芽子だけのもの。

 だから昨日も、今日も、明日も同じ。啓五の眼を厭う人々が彼を拒んでも、そのぶん陽芽子が愛し抜く。

 どこかの誰かに拐われても、きっとこの眼を探し求めてしまう。啓五が迎えに来てくれる瞬間を待ち続けてしまう。

 『白雪姫』だと揶揄される陽芽子は、また今日も『王子様』と見つめ合い、そのたびに恋に落ちている。


 Story1:END*

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