スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
けれど鳴海の事情など気にする必要はない。彼女にはそんな権利などない。
それよりも陽芽子のメンタルケアの方が大事だが、こちらについても実はさほど問題に感じていない。
陽芽子は自分に敵意を向ける相手と対峙しても、自ら状況を判断して適切な言動を選ぶことが出来る。もちろん啓五も、陽芽子を最も大切な存在として扱う。
私情を持ち込んで業務を妨害するなど言語道断だ。だから鳴海がしたことを考えれば、本来なら陽芽子はもっと怒ってもいいと思う。
しかし今の陽芽子から怒りは感じられない。どちらかと言えば『気にしていない』『もう許した』という考えのようで、鳴海に対しては気を遣っている様子さえある。
むしろ例の件に関しては、啓五の方が未だに腹立たしいと感じてしまうぐらいだ。
そんな事情を一旦思考の外へ追い出し、陽芽子を応接セットのソファに座らせる。目の前のテーブルには大きな段ボールが二つ置いてあり、中にはクラルス・ルーナ社で扱っている加工食品や飲料が入っていた。
「これ新商品のモニター」
「えっ……こんなにたくさん?」
「うん。陽芽子が欲しいもの選んで。別に全部でもいいけど」
段ボール箱の蓋を開きながら説明すると、陽芽子は余計に困った顔をしてしまう。
もちろん理由も察している。陽芽子はやっぱり、鳴海に『気を遣っている』のだろう。
重役に用意された新商品や先行試作品を無条件で手にできる人間など、社内にさほど多くはない。いるとすれば『家族』か『特別な存在』ぐらいだろう。そして陽芽子は『副社長の婚約者』という『家族』に準ずる『特別な存在』だ。
その事実を明示するように、あえて鳴海の目の前で陽芽子を特別扱いする。