スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 それが鳴海の心理状態に何かしらの影響を与える可能性は、啓五にも想像できている。だから陽芽子も鳴海に気を遣って、啓五と必要以上に密着したりプライベートの時間を見せないように注意を払っているのだろう。

 けれどいつまでもこの膠着状態を放置するつもりはない。陽芽子が啓五と結婚して副社長夫人となれば、陽芽子と鳴海が接触する機会はどうしても増えてしまう。

 もちろん陽芽子と秘書が接する状況になったときは、もう一人の秘書である吉本を介するよう、配慮はする。

 しかし絶対に陽芽子と鳴海が近付かない保証はない。いつか訪れるかもしれないその状況を考えれば、いい加減に手を打つ頃合いだ。鳴海にはこの機会に、ちゃんと肝に銘じてもらう。

「一緒に食べよ。これとか酒のつまみに良さそう」
「いえ……その……」
「ドライフルーツ嫌いだっけ? チョコレートは?」

 啓五は陽芽子の困惑には構わず、さらに追い打ちをかけるよう問いを重ねる。陽芽子の困った顔が可愛いから、もっと見たい、と思っているのも事実ではあるが。

「あああ、あの……?」
「ん?」

 鳴海の視線をちらちらと気にしながら距離を取ろうと頑張っている陽芽子に、うんと優しい声と表情で微笑む。それだけで陽芽子の顔はさらに赤くなってしまう。

 照れているらしい陽芽子が可愛すぎてこのままソファに押し倒したくなったが、身体が動く前に鳴海から声を掛けられた。

「……副社長、タブレットのロックが」
「あぁ、悪い」

 啓五が使っているタブレット端末にデータを入れたり抜いたりする場合は、啓五本人の指紋認証かパスコード入力が必要になる。それもあって鳴海はこの場で作業している訳だが、ちらりと表情を盗み見るといかにも不服そうに眉を寄せていた。
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