スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
全力の知らないふり
「室長、具合悪そうですね?」
「何か嫌な事あったんですかぁ?」
やっとの思いで部署へ戻ると、蕪木と鈴本が今朝と同じテンションで真逆の事を聞いてきた。この2人も、後から出社してきていた夏田も、芹沢も、平子も、きっと朝礼の短時間の間に何が起こったのかは分からないだろう。陽芽子としては、ただ笑うしかない。
「何でもない。ミーティング始めるわよ」
うん、一旦忘れよう。
どうせお昼休み以外はコールセンター内に引きこもっているので、陽芽子が社内で啓五に会う可能性はほとんどない。そのうち遭遇することもあるかもしれないが、その時には啓五の方が陽芽子の事を忘れているはず。
なんせ啓五はあの『一ノ宮』の御曹司だ。歴代の一ノ宮の人間は揃いも揃って浮き名を流してきた美男美女ばかり。一族のどこを切り取っても見目麗しい容姿を生まれ持ち、地位も権力も栄光も欲しいまま。
遊び相手など掃いて捨てるほどいることは想像に容易い。なんなら陽芽子のことなど、すでに綺麗さっぱり忘れているかもしれない。むしろそうであって欲しい。出来れば遭遇しても視線すら合わないぐらいの状態が望ましい。面倒事には巻き込まれたくない。
そんな事を考えながら、朝礼での社長の挨拶の内容、新しい副社長の就任、社員食堂の価格改定、喫煙所の使い方の再確認、先週の要注意案件を全員に伝達して共有する。そしてミーティングとテストコールが終われば、すぐに電話回線を開ける時刻になる。仕事の時間が始まれば、陽芽子には他の事を考えている余裕なんてないのだから。
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