スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「え……あの……」
まるで友人にでも会ったかのような声音の軽やかさに、陽芽子よりも隣にいた彼の秘書……鳴海が怪訝そうな顔をした。
(す、すごい睨まれてる……!!)
陽芽子は啓五の隣にいた女性秘書が、自分を敵視した瞬間を明確に感じ取った。あからさまな悪意の視線は一切隠されることがなく、痛いほどに陽芽子の身体に突き刺さる。
たったの三階の移動なので、エレベーターはすぐに目的階へ到着する。扉が開いたことを確認した瞬間、陽芽子は慌ててそこから抜け出した。何も言わないのは失礼だと思ったので、出る前に一応会釈は付け加えておく。
「失礼いたします」
「って、おい! 陽芽子!」
「副社長、扉閉まりますよ」
恐らく色んな感情が顔に出てしまっているだろうと思いながら、もう一度頭を下げた。箱の中からは陽芽子の名前を呼ぶ啓五の声が聞こえていたが、鳴海の言葉と閉じて行く扉に、その声は掻き消えた。
多分、鳴海の行動は秘書として間違っている。上司がまだ要件を終えていないのに、強制的に扉を閉めてしまう行動は非常識かつ誤った対応だろう。そこだけ切り取れば、彼女は全く優秀な秘書ではない。
でも陽芽子は助かった。
「……バレるの、早すぎでしょ」
陽芽子のことなど綺麗さっぱり忘れているかもしれないと思ったが、啓五は顔も名前も忘れていなかった。陽芽子としては遭遇しても視線すら合わないぐらいの状態を望んでいたが、出会い頭に目が合ったのだからもう逃れようがない。
とりあえず全力で知らないふりをした。鳴海が傍にいる以上、他にどういう反応をすればいいのかわからなかったから。
(でもこれ……どうすればいいんだろ)
思わず頭を抱えてしまう。
どうシミュレーションしても吉事に恵まれる展開が想像できない。
これから自分の身に起こるであろう面倒な状況を悟り、陽芽子は誰もいない廊下でがっくりと肩を落とした。