スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
特別な関係―――想像もしていなかった甘美な言葉を聞いた瞬間、全身がかぁっと燃焼した。あの日の出来事を、明確に思い出して。
忘れていたことを無理矢理思い出させるような言葉を掛けられ、ついその眼を睨んでしまう。至近距離で目が合うと、啓五はようやくその手を離してくれた。
「じゃあもう呼び出しはしない」
「……呼び出し『は』?」
「その代わり、一緒に食事に行こ? 陽芽子の好きなものでいいから」
楽しそうな笑顔を向けられて、ついドキッとしてしまう。啓五は鋭い目付きが印象的だが、笑うと意外にも無邪気な少年のようだ。
「申し訳ございません。勤務時間外はプライベートの時間ですので、どうかご容赦下さい」
その笑顔に惹かれてつい頷きそうになるが、絆されている場合ではない。
これ以上、啓五に近付いてはいけない。いち社員でしかない陽芽子と経営者である啓五では、あまりに立場が違い過ぎる。一緒にいる姿を誰かに見られでもしたら、面倒事に巻き込まれることは目に見えている。
「会社で話しかけんな、プライベートでも誘うなって?」
直前まで楽しそうだった啓五の表情と言葉は、陽芽子が誘いを断ったことで急激に曇ってしまった。
傷付けてしまったかもしれないと思う反面、脳裏に啓五の秘書の顔が浮かんで来て、やはり危険な行動は避けるべきだと思い至る。鳴海の鋭く威圧的な態度に目をつけられるのは面倒だ。女の勘と経験則が、不用意に関わるべきではないと警告している。
だから陽芽子はこれで話を終えるつもりだったのに、啓五はどんどん不機嫌になってしまう。落胆の色に満ちる瞳と見つめ合い、陽芽子は静かに困惑した。なぜ自分は、副社長とその秘書の顔色で板挟みになっているのだろうか。