スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 フラれた。
 割とあっさりと。

 失恋した女性を慰めたら自分が失恋するという展開は初めてだった。

 とは言え、陽芽子が気に入ってくれなかったのなら仕方がない。新しく始まる仕事に備えて、自分の中に生まれた一夜の熱と欲望にはどうにか踏ん切りをつけた。それで終わるはずだった。

 けれどなんの偶然か、新しい会社で陽芽子とあっさり再会した。しかし本人に事情を聞こうとしたら、猫のようにするんと逃げられてしまった。急いで秘書に調べさせたところ、彼女がクラルス・ルーナ社のコールセンターに勤務する社員であることが判明した。

 ささやかな偶然が嬉しかった。
 陽芽子を振り向かせるチャンスが巡って来たのだと思えたから。

 だが副社長室に呼び出して以降、陽芽子には一度も会えていない。こんなに近くにいるはずなのに。

「それでここ最近、来る回数が多いのか?」

 環が再び首を傾げる。それならばIMPERIALで会えばいいという思考は、短絡的すぎて環にも簡単に見抜かれた。啓五が『まぁ』と返答すると、茶色の瞳が大きく見開く。

「まさか啓、マジで陽芽ちゃんと寝たの?」
「……」

 陽芽子とここで出会ったとき、環には軽率な行動を慎むよう視線で制止されていた。しかし啓五は『送っていく』と言い残し、結局は陽芽子をホテルへ誘った。

 実の兄より慕っている環に胡乱な目を向けられ、啓五は言葉に詰まった。

「お前な……酔ってて、しかも失恋で弱ってる相手に最低だろ」

 さらに説教が加えられる。もちろん陽芽子は泥酔して昏睡状態だったわけじゃない。本人の合意なく行為に及んだわけでもない。だからもちろん犯罪ではないが、姑息だと言われればぐうの音も出ない。

「いいけど、もう手は出すなよ」
「……何で?」
「だって陽芽ちゃん、結婚したいって言ってただろ? 結婚適齢期の女の子をお前の気まぐれで振り回して、挙句サヨウナラなんて可哀想すぎるじゃん」

 啓に結婚する気があるならいいけど? と環に釘を刺され、再びため息が漏れてしまう。
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