スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
このプロセス自体は一ノ宮の人間にとってさほど珍しい事ではないが、他人にとってはわかりにくいのかもしれない。とは言え、陽芽子が同じグループの会社に所属しているのは確実に知っていたのだ。会った時点で教えてくれてもよかっただろ、と言いたくもなる。もちろんバーテンダーが客同士の会話に積極的に口を挟んでこないことは、理解しているけれど。
「じゃあ詫び代わりに、ひとつだけ教えてやる」
それでも内心面白がりながら黙っていたことを、多少は申し訳ないと思ってくれていたようだ。
「陽芽ちゃん、普段は金曜日には来ないぞ?」
「いや、だから何でそれを先に言わねーんだ!?」
にやにやと告げられ、つい眉間に皺が寄ってしまう。ただでさえ鋭い目付きなのに、相手を睨めば威圧感を与えてしまうことは自分でも理解している。けれど四十度のアルコールが回った頭では、環に対して遠慮など出来なかった。
「じゃあ、何曜日に来んの?」
「それはお客様の個人情報だから内緒」
「……あっそ」
上手くかわされてしまったので、環を懐柔することは諦めるしかない。諦めのため息を吐くと、環がニマニマと笑みを浮かべた。まるで弟の恋の話を面白がる兄のように。
「本気なんだ?」
「……」
そうだ、と。
黙り込まずに明言しておけばよかった。
陽芽子が気になっている。もう一度プライベートの時間を一緒に過ごしたいと思っている。
このとき環にちゃんとそう言っておけば、もっと早く陽芽子に会えたかもしれない。
陽芽子の恋愛相談を聞いて後悔することなど、なかったかもしれないのに。