スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
陽芽子の同僚であるコールセンター課ギフトセンター長の澤本は、身内に結婚相談所に勤めている人がいるらしい。以前、雑談をした際に『白木さんに興味があるなら、資料もらってきてあげる』とおすすめされていたのだ。しかもその結婚相談所は規模が大きく全国展開している企業で、会員数も成婚率も業界内トップクラスだと言う。
「パンフレット見る? あ、ここで出したらだめ?」
「いや、いいけど」
邪魔ならしまうから、と付け加える前に環が興味深げに頷いた。
通勤用のバッグからもらってきたばかりのパンフレットを取り出すと、カウンターの向こうの環に手渡す。環は冊子をパラパラとめくると、納得したようにフンフンと頷いた。
「へー、こういうシステムなんだ」
「プランも色々あるみたいだよ?」
環の詳しい恋愛事情は知らないが、陽芽子の持ち込んだ資料を熱心に見ているあたり、彼にも興味があるのかもしれない。
中性的な外見の環ならモテそうなのに。
なんて思っていると、店の入り口から声を突然掛けられた。
「陽芽子!」
名前を呼ばれた陽芽子は、バーチェアの上でびくっと跳ね上がった。何事かと思って振り向くと、そこには驚いたような顔をした啓五が立っていた。
(と、とうとう会ってしまった……!)
思わず凍り付く。あれから二か月間まったく会っていなかったので、完全に油断していた。
「……お疲れさまです」
どう反応していいのかわからず、とりあえず無難な挨拶をしてみる。
副社長室に呼び出された日、陽芽子は啓五と食事に行くことを拒否した。プライベートの時間を共にしたいと言われたが、万が一にもその姿を他人に目撃されたくないと思い、その場で断った。
陽芽子の返事を聞いて不満そうな顔をした啓五に、IMPERIALに足を向けることはあると伝えてやり過ごした。だからそのうち会うかもしれないと思ってはいたが、それが今日だとは思っていなかったわけで。