スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「そんなに警戒しなくてもいいだろ」
啓五はそこまで物知らずではないらしい。アルコール度数の低いカクテルを注文すると、隣から不機嫌な声が聞こえた。
桃と柘榴の可愛いらしい色にスパークリングワインを注いだお酒は『あなたの前で酔うつもりはありません』という意思表示。もちろんノンアルコールカクテルをオーダーすることも出来るけれど、お酒に付き合ってと言われてソフトドリンクを注文するほど失礼なことはない。
不服そうな啓五に向かって曖昧な笑顔をつくると、静かにため息をつかれた。
「なにこれ?」
無言のままジントニックを口に含んだ啓五が、ふと疑問の言葉を呟いた。言われて視線を向けると、カウンターの上には環に見せるために出したパンフレットが置いてあった。直前のやり取りをすっかりと忘れていた事に気が付いても、彼の手からその冊子を奪い取るにはもう遅い。
「け……結婚相談所のパンフレット、です」
「は? 結婚相談所!?」
後の祭りを嘆きつつ説明すると、先ほどの環よりもよっぽど驚いたような声が店内に響いた。
「陽芽子、そんなに結婚したいの?」
「う……ええと、……はい」
驚きの表情を見るに、陽芽子の結婚願望の話など忘れていたのだろう。
必死になっていると改めて認識されるのも恥ずかしいが、何かのきっかけに後から知られるのもかなり恥ずかしい。どうせ恥ずかしい思いをするなら……と考えて顎を引くと、啓五の眉間にぐっと皺が寄った。
「副社長はまだお若いですから、ご興味ないかもしれませんが……」
ぽつりと呟くと、ベリーニを喉の奥に流し込む。さわやかな甘酸っぱさがはじけると同時に、胸の奥には小さなざわめきが広がった。
啓五は現在二十九歳。まだ二十代で、しかも副社長に就任したばかりの彼に結婚願望があるとは思えない。
「こんなの入会しなくたって、結婚相手なんてすぐ見つかるだろ?」
あなたはそうでしょうね。
と言いそうになって、急いで口を閉じる。