スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
コールセンターの入口の電子ロックに三人続けて社員証をかざすと、揃って中へ足を踏み入れる。後ろからついてくる蕪木の疲労を感じ取った陽芽子は、歩きながら首だけで後ろを振り返った。
「もしかして、また来たの?」
「ええ、一回だけですが」
「ウィスも反応しない?」
「ダメですね。非通知でした」
「そう……」
淡々とした報告に、陽芽子は重いため息をついた。鈴本の顔を見ると彼女も落胆の表情を見せているし、まだ半日しか経っていないのに蕪木もひどく疲れた顔をしている。
けれどその気持ちはよくわかる。正直関わりのない副社長秘書の冷たい態度よりも、こちらの方が何倍も疲労する。
コールセンターに勤めていると、時折出会うことがある厄介な案件。非通知で日に何度もかかってくる『いやがらせ』の無言電話だ。
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「陽芽子、今日は元気ないな」
疲労の理由の一つはあなたですよ。と言えるはずもなく、陽芽子は乾いた笑いで啓五の言葉を聞き流した。
彼は知らないのだろう。自分の秘書が他の女性社員に冷たい視線を向けて密かに牽制していることなど。その睨み顔が実はとっても怖いことを。
本音を言えばそちらで改善してほしいところだが、あえて啓五本人に申告することでもない。言わなければ、知らない世界の話なのだから。
再びIMPERIALで出会ったことをきっかけに、啓五と会う回数が格段に増えてしまった。陽芽子が火曜日の仕事終わりにIMPERIALへ足を運ぶ理由は、月曜日と火曜日の仕事の辛さを一時的に忘れ、残りの三日間をお酒の勢いで乗り切るための、いわば中間助走だ。本当は週の真ん中がいいが、水曜日は環が出勤しない曜日である。