スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
だから環と他愛のない雑談をするために火曜日を選んでいたのに、ここ最近ずっと啓五に割り込まれている気がする。とは言え、慣れたルーティンを崩してまで現在の曜日から他の曜日に変える気持ちもない。
結果、いつもの席で甘いカクテルを飲んでいると、隣に啓五がやってくる火曜日を三回ほど繰り返していた。
「仕事、忙しいのか?」
「えっと……いつも通りと言えば、いつも通りです、けど……」
労うような言葉を掛けられ、陽芽子は曖昧な笑みを浮かべた。
陽芽子の心配をしてくれるのは嬉しいが、むしろ啓五の方が忙しいのではないだろうか。ただでさえ経営者は多忙だと思われるのに、彼はまだ就任して数ヶ月だ。
社内報によると、啓五はルーナ・グループの各社に所属経験があるが取締役へ就任した経歴はない。まだ慣れない仕事に追われている時期のはずなのに、火曜日の二十一時になると自然な動作で陽芽子の隣に座ってくるのが単純にすごいと思う。
(努力家……なんだろうなぁ)
カルーア・ミルクに口をつけながら、ちらりと隣に視線を移す。啓五の顔に疲労の一つでも浮かんでいるのなら、早く帰って寝ることを促す材料になると思ったのに。
そろりと顔を上げると、啓五の方も陽芽子の顔をじっと見つめていることに気が付いた。
「え……えっと……?」
いつからこちらを見ていたのだろうか。カウンターに頬杖をついた啓五は、陽芽子がカクテルを口にする様子をずっと眺めていたらしく、視線が合うと嬉しそうな笑顔を向けられてしまった。
鋭い目が柔らかく微笑む。
その表情の意味がわからない。
「あの、副社長……」
「陽芽子」
あんまりじっと見ないで欲しいと言っておきたくて口を開いたが、直前に言葉を遮られた。
「プライベートで副社長って呼ぶの止めようか?」