スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「ありがとう、白木さん?」
「……いえ」
わざとらしく微笑む啓五の顔を直視できず、自然な動作でネクタイの結び目に視線を落とした。本人は目線が合わないと感じるだろうが、そこを見つめていれば他人にはちゃんと向き合っているように見えるはずだ。
「オペレーターの数は、意外と少ないんですね」
コールセンター内に足を踏み入れるのは初めてなのだろう。啓五は興味深げに頷いているが、陽芽子としては早く自分の部屋に帰って欲しいと思ってしまう。
しかし就任して間もない副社長に社内の環境や業務内容を伝えるのも、部署長の大事な役目だ。啓五の関心を悟った春岡がゆっくりと頷く。
「コールセンター業務は離職率も高いとか?」
「精神的にハードですからね。特にお客様相談室は、熱の籠ったお言葉を頂くこともありますし、時間をかけてお叱りを受けることもありますよ」
「……大変そうだな」
春岡は言葉を選んだが、説明を聞いた啓五にもその過酷さが伝わったのだろう。綺麗な顔が歪む様子を見た春岡が、苦笑と共に陽芽子の方へ振り返った。
「けど白木が責任者になってから、オペレーターの離職率が格段に下がりました。本人の応対スキルもさることながら、部下の教育とコントロールが上手なんですよ、彼女」
「へえ」
上司に急に褒められ、陽芽子の背筋がしゃんと伸びた。親指と人差し指で自分の顎を撫でた啓五が、陽芽子の顔を見つめて少しだけ驚いたような顔をする。
「ふうん。白雪姫と従者の小人か」
「!?!?」
新しい発見をしたように感慨深げに頷く啓五と目が合うと、陽芽子の手には無意識に力が入った。
(その呼び方止めてって言ったのに!)
啓五にIMPERIALで会ったとき『白雪姫』と呼ばないで欲しいと訴えた。それには啓五も同意してくれた。と思ったのに。
楽しそうに笑う口元を見て、陽芽子はさらに拳を固く握る。次会ったら覚えてなさいよ~! なんて具体的な仕返し方法を思いつけないまま、ぐつぐつと腸を煮る。