スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
大人の恋の悩みごと
「へえ、じゃあ陽芽子は浮気されたんだ」
「ええ、そうです。うん……ははは」
何で金曜の夜に一人で飲んでんの? と聞かれたので、つい先ほど環に話した内容をもう一度繰り返す。話を聞いてもらっているうちに、下の名前を呼び捨てにされていることはさておき。
改めて啓五に現実を突きつけられ、陽芽子は乾いた笑いを零した。
先ほどまで飲んでいた『ル・ロワイヤル』は空になり、グラスの中は『アプリコット』にかわっている。
次のオーダーをするとき、環には目線で一瞬止められた。けれど見ていた啓五が『飲ませてやればいいじゃん』と口を挟んだので、結局目の前にはアプリコットブランデーのカクテルが用意されている。
度数の割に甘いカクテルを口に含むと、啓五の指もモヒートのグラスに伸びた。
「私……はやく結婚したいのにな……」
いつの間にか愚痴に付き合わせていることを、申し訳ないと思いつつ。ぽつりと呟いた願望は、ビタミンカラーの煌めきの中にほろりと落ちて溶けていった。
「結婚したい? なんで?」
不思議そうに首を傾げた啓五の反応を確認して、つい苦い笑みを浮かべる。
そう、男の人は大抵そういう反応をする。世の中の男性たちは、結婚したいという女性の気持ちを中々理解してくれない。
もちろん陽芽子も、結婚が人生の全てだとは思っていないない。仕事は『きつい』が、嫌という訳ではない。むしろやりがいがあって充実していると思う。だから仕事から逃れるために結婚したいと思っているわけではなく。
ただ、普通に生きているつもりでも辛いときがある。どうしても寂しい時間がある。誰かに甘えて頼りたい日がある。
だからそんなつらくて苦しい日々からほんの少しだけで抜け出て、疲れをほぐすように癒して癒されて、お互いを高め合っていける『自分だけの存在』が欲しいと思う。