スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 再び自分の番になった陽芽子は、ラインのギリギリに右足を置くと左足を後ろに引いてみた。さきほど啓五が投げるフォームを見て気付いたが、線に対して平行に立つよりも前後の重心移動に遊びがあった方が上手く投げられるらしい。

 物の試しにその姿勢で投げてみると、今度は十五点の場所に刺さった。

「陽芽子、実は運動神経いいだろ」
「えー、どうだろ?」

 やはりこの体勢の方が、適度に力が抜けて上手く飛んでくれるらしい。それに正面を向いて投げるよりも肘の位置が下がるので、腕がブレずに軸が安定しやすい。

 啓五の投げ方や姿勢や得点の狙い方を観察し、自分が投げるときは少しずつ姿勢と軌道を修正していく。五週目を終える頃にはなんとなく狙ったところへ刺さるようになってきたが、啓五に勝つためにはまだまだ点数が足りない。

 やっぱり初心者が経験者に勝つのは無謀だったかな? なんて考えながら投げると、突然得点の画面が派手に光り出した。

「ブル!?」
「……ぶる?」

 ハイボールを口にしていた啓五が、驚いたような声を出した。聞こえた言葉を反復すると、啓五が

「真ん中に当たったら五十点」

 と肩をすくめながら教えてくれた。確かに陽芽子の投げたダーツは中央の黒い点に刺さっている。さらに上の画面の表示には一気に五十点が加算されており、あっという間に啓五の点数を抜き去っていた。

 そんなビギナーズラックで高得点を獲得した陽芽子とは対照的に、今日の啓五は調子が良くないらしい。
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