スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

「ま、ゲームには負けたけど、陽芽子が嬉しそうだからいいか」

 肝心の啓五は値段のことなど全く気にしていないらしい。それどころか勝負に負けたはずなのに、得したような顔をしている。陽芽子の感情とは正反対だ。

「……ベタ惚れだなぁ」

 ボソリと呟いた環の言葉は、一生懸命聞かないふりをする。ちらりと啓五の横顔を見ると、彼も返事こそしていなかったが表情は嬉しそうだった。

「なぁ、陽芽子。まだ結婚相手、探してんの?」
「うん」

 フルートグラスの中身を味わっていると、隣から啓五に話しかけられた。中身を飲み干して指先でグラスのルージュを消すと、啓五の問いかけに顎を引く。

 ふうん? と興味深そうに相槌を打った啓五も、入会したの? と首を傾げる環も、少し前に話していた話がどうなったのかを知りたいのだろう。

 だが残念なことに、まだ結婚相談所には入会していない。仕事の忙しさと初期投資の金額にためらっているところに無言電話の案件が発生したせいで、すっかり忘れてしまっていたのだ。

 けれど忙しくなればなるほど、癒しが欲しいと思ってしまう。ここ最近の陽芽子は、気分もお肌の調子もすっかり荒んでいる。

「早く入会して、いっそ十歳とか二十歳とか年上の人を紹介してもらおうかなぁ」

 最近色々と荒んでいるからか、包容力のある人がいいなぁ、と思ってしまう。仕事でへとへとに疲れても、嫌なことがあってへこんでも、頭を撫でて抱きしめてくれるような人。それにうんと年上の相手なら、その分だけ自分も若いお嫁さんになれる。

 あ、その考えいいかも。なんて名案を閃いた気分でいると、隣から不機嫌そうな声が聞こえた。

「……なんでどんどん遠ざかるんだ」
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