スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 ぼそりと呟いた声には気が付いたが、何を言ったのかは上手く聞き取れなかった。首を傾げると、カウンターに頬杖をついた啓五がつまらない確認をするような視線を向けてきた。

「陽芽子、そんなに年上がいいの?」
「え……? 定職に就いてて浮気しない人なら、同い年でもいいけど……?」

 その瞳の色がいつも以上に冷たい気がして、陽芽子もドギマギしながら答える。だが返答を聞いた啓五は、更に面白くない出来事に遭遇したような顔をした。

「ハードル低すぎるだろ。それなら誰でもいいじゃん」
「……うん、誰でもいいよ」

 怒ったように言われて、陽芽子も戸惑う。

 でも啓五の言う通りだ。厳密に言えば誰でもいいわけではないが、広い意味ではその表現も当たっている。

「私のこと『好き』って言ってくれる人なら」

 誰でもいい。
 心の底から好きだと言って愛してくれる人なら。一方的にさよならを言って離れていかない人なら。陽芽子をちゃんと甘えさせてくれる相手なら。

「なら、なんで年下はダメなの?」
「えっと……年下の人と付き合ったこともあるんだけど……。私より若い子に浮気されて、その浮気相手に『おばさん』って言われたのがちょっとしたトラウマで……」

 また苦い過去を思い出してしまう。

 若くして係長の役職についた陽芽子に『完璧な人だから自分にはもったいない』と言って離れていく年上の男性がいる一方で『年齢が上がれば偉くなるのは当然だ』と言って離れていく年下の男性もいる。

 最初と何も変わっていない年の差を勝手に広げて、本当は恋人に甘えたいと思っている陽芽子の感情を嘲笑うかのように、ひどい言葉を掛けられたこともある。
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