スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
年上の男性は変にプライドがあるからか、別れる相手を傷付けないように言葉をちゃんと選んでくれる。けれど年下は容赦なくおばさん扱いして、辛辣な言葉を投げつけてくる。そんな言葉を使わなくなって引き際ぐらい悟れるのに。
「可愛げないんだ、私」
最後まで話したら泣きそうになる。だからもう思い出すのは止めにして、二杯目のミモザのグラスを口にする。
「そんなことない。陽芽子は可愛いよ」
「………啓五くんは、優しいね」
視線の鋭さとは対照的に、啓五は意外と話しやすくて優しい。陽芽子の話も聞いてくれて、ちゃんと女の子のように扱ってくれる。
けれど陽芽子と啓五は、特別な関係にはなれない。啓五は年下で、同じ会社に所属しているにも関わらず社内で一切会うことがないほど、陽芽子とはかけ離れた存在である。
それに彼とは結婚に対する考え方が違う。陽芽子はすぐにでも結婚したいと思っているが、啓五は以前『結婚なんて』と言っていた。彼の恋愛観や結婚観は、陽芽子と根本的に異なっている。
そもそも啓五は陽芽子を女の子として扱ってくれるし時折誘うような言葉をかけられるが、別に好きだと言われた訳じゃない。かなり前に『付き合う?』と軽い口調で誘われたことはあるが、『好き』だと言われた事はない。
付き合って結婚するなら、好きだと言ってくれる人がいい。なんて、いい歳をして乙女思考な自分に苦笑していると、啓五の低い声に名前を呼ばれた。
「年下が絶対ダメ、ってわけじゃないんだよな?」
「え? う、うん……まぁ?」
やけに真剣に確認されたことに戸惑ってつい曖昧に頷く。その返答を聞いてほっとしたように息をついた啓五にどんな顔をしていいのか分からず、そっと話題を逸らした。
「啓五くんは?」