スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
人の恋愛観を根掘り葉掘り聞いておいて、啓五自身はどうなのだろう。以前の会話から結婚願望がない事は知っていたが、生涯に渡って全く結婚する気がないという訳でもなさそうだ。
時折、陽芽子に対して興味があるような素振りも見て取れる。けれどそれは陽芽子の勘違いかもしれないし、仮に興味を持たれていたとしても、実際に選んだり選ばれたりする可能性は低い。お互いに。
そういう『もしかして』の話ではなく、現実的な話として啓五の婚姻事情はどうなっているのだろうという、素朴な疑問。
「親が決めた許嫁とかいそう」
「いや、いないけど」
陽芽子の疑問は即座に否定された。啓五には一ノ宮家が決めた相手はいないらしい。
「でもいいところのお嬢さん? と結婚するんだよね?」
「は? なにそれ、どういう妄想?」
次に浮かんだのは政略結婚だった。
けれど、それもないらしい。
由緒ある一ノ宮家の御曹司なら、てっきり周囲の人が結婚相手を決めるものだと思っていた。育ちも学歴も良く、見た目も麗しく、婚姻する事でお互いにとってメリットがあるどこかの令嬢と結婚する。
そんなドラマみたいな人間関係を勝手に想像していたが、啓五には婚姻における制限などないらしい。
「恋愛も結婚も自由だよ。俺はな」
「……『俺は』?」
まるで『安心して』と諭すような表情を向けられ、一瞬、心を奪われる。しかし優しげな笑顔と一緒に意味深な言葉がくっついていたので、奪われた心はすぐに元の場所に戻った。
「さすがに本家の跡継ぎは、自由に結婚とはいかないだろうけど」