スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 社長がそう言うのだから、ただの都市伝説なのだろうと思っていた。だが何となく聞いてみた問いを、副社長の啓五があっさりと肯定してしまう。

 これには陽芽子も驚いた。もちろん環も、珍しく大声を出して身を乗り出している。

 けれど確かに、社長は噂話に迷惑しているとは言ったが、その噂が本当か嘘かの明言はしていないかった。

「啓五くんは興味ないの?」
「ん?」
「莫大な財産」

 怜四は迷惑だと語っているが、啓五はどう思っているのだろう。もしも一ノ宮伝説が本当ならば、啓五は莫大な財産とやらに興味はないのだろうか?

「まあ、興味がないとは言わないけど、俺『五』だぞ? 下の世代が全員二十歳で結婚して、すぐに子どもが産まれていったとしても『十』の名前が付くころには俺も百十歳だ。それ死んでる可能性の方が高いだろ」
「あ、そっか……」

 確かに啓五が莫大な財産を目にするには、厳しい条件だろう。仮に遺産を目の当たりにしたとしても、都市伝説の通りならそれを手にするのは『十』の名前を持つ者だけ。啓五には関係ないと言えば関係ない話である。

「それより俺は、もっと別のことに興味がある」

 ふと啓五の瞳の奥に、小さな光が宿った。その一瞬の耀きを偶然発見した陽芽子は、啓五の横顔を見てそっと首を傾げた。

「陽芽子は、ルーナ・グループの経営陣が頻繁に入れ替わる理由を知ってるか?」
「え……知らない……」

 急な話題の方向転換に、ちょっと間抜けな声が出る。さらに、ぽかんと口を開けて啓五の顔を見つめてしまう。きっと今の自分はかなり間抜けな表情をしているのだろう。

「ルーナ・グループは今、系列四社を束ねる『統括CEO』のポストをつくろうとしてるんだ」
「と、統括CEO……!?」

 またスケールの違う話が飛び出し、思わず声が裏返る。
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