スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 子孫繁栄の次は、経営戦略。しかしついつい大きな声が出てしまったが、内容そのものは青天の霹靂ではない。

 ルーナ・グループはグループと謳ってる割には横の繋がりが希薄で、系列会社であることのメリットを活かしきれていない印象がある。扱う商品やサービスに差異はあれど、同じ食品関係の会社なのだから、もっと商品や情報を共有して然るべきだ。

 まして経営者が全て一ノ宮一族ならば、やり方はいくらでもあるはず。末端の社員である陽芽子でさえそう感じているのだ。

 啓五の口調から察するに、華麗なる一ノ宮一族の裏側は全員仲が良い優美な世界ではないようだ。しかし巨大グループの中には、無駄の多い今の状況を打破しようとする動きもあるのだろう。その初動として四社を総括する存在を配置するのだろうか。

「統括CEOは、全社の経営状態を熟知した上で上手くコントロールする技量を要する。だから俺たちの世代は大学卒業直後から二年ごとに全社を回って、経営状況と社内情報を頭の中に叩き込む訓練をする」

 啓五がシャンパンに口を付けながら語る言葉を、極秘情報を聞いているような心地で聞き入る。この話、私なんかが聞いてもいいのかな、と思いながら。

「そのあと社長もしくは副社長のポストに腰を据えて、会社を適切に運営できる能力があるかどうかを試される」
「試される……?」
「そう。つまり今の俺たちはルーナ・グループの未来を背負う存在に相応しいかどうか、狸親父どもに査定されてる真っ最中ってことだ。まぁ、具体的に統括CEOを置く時期はまだ決まって………どうした?」

 淡々と語る言葉に聞き入ってたが、話を聞く限り啓五は見えているよりもずっと大変な状況に身を置いているように思える。その一部を垣間見た気がして、つい言葉を失ってしまう。

「いや、やべえ一族だなと思って……」
「啓五くん、ダーツなんてやってていいの?」
「息抜きは大事だろ」

 それはそうだけれど。
 しかし過酷な環境で仕事をしていれば、そのうち身体を壊してしまうのではないかと心配になってしまう。
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