スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
けれど陽芽子や環の心配を余所に、啓五本人は至って平然としている。あまりに飄々としているものだから、こっちが拍子抜けしてしまうほどだ。
「一ノ宮の本家は代々長男が跡を継いでいくと決まってるから、次男の息子の俺にはどうしようもない。伝説についても俺には確認不可能だろうから、あまり眼中にない」
「……」
「けど、やり方次第で手に入る統括CEOの座は別だ。今後そこが一ノ宮の『頂点』になるなら、俺はその椅子を目指す」
「……啓五くんって、意外と野心家なんだね」
真剣な語り口調とグラスの中を見つめる横顔を見て、ふとそんな印象を抱く。
一ノ宮という良家に生まれ、与えられた役職にふんぞり返って、お金に物を言わせて遊んでいるだけの御曹司だなんて思っていてごめんなさい。
いや、思っていないけれど。きっと努力家なんだろうなぁ、と感じていたけれども。でもそれほどの事情と熱意があるとは思っていなかったから、少しだけ意外だった。
「陽芽子は、必死な男は好きじゃない?」
穿った見解を反省していると、バーチェアを動かした啓五に顔を覗き込まれた。その黒い瞳がいつも以上に必死な気がして、心臓がどくんと跳ねる。
「……ううん。自分の夢とか目標に向かって突き進んでいけるのは、格好いいと思うよ」
野心家なのは決して悪い事ではない。明確な目標を持って高みを目指す決意ができることもある種の才能だし、才能を活かすには努力も必要だ。
啓五はその二つを兼ね備えている。その強い意志に惹かれてる自分にも、本当はもう気が付いている。それに。
「俺は、自分が欲しいものは必ず手に入れる。―――奪ってでも」
「……啓五くん?」
彼が夢中になって情熱を注ぐのは、きっと仕事だけではない。だから最後の言葉が自分へ向けられている気がしたのも、たぶん陽芽子の気のせいではなかった。