スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

愛着と執着(啓五視点)


(喋りすぎたか……)

 すっかりとぬるくなり泡が消えかけたシャンパンを口にしながら、自分で語った内容を少しだけ後悔する。

 ルーナ・グループや一ノ宮家の事情は、無関係の人間にとってはさぞ重たい話に感じるだろう。環は一ノ宮が『ややこしい』一族であることを知っているが、陽芽子は啓五を取り巻いている状況がこんなにも複雑かつ厄介であることを知らなかったはずだ。

 引かれたかもしれない――そう思う一方で、陽芽子には知っておいて欲しかった気持ちもある。

 何故なら陽芽子は、啓五の今後の人生に必要な存在だから。誰よりも自分の傍にいて欲しいと思っている人だから。どんな手を使ってでも自分に振り向いて欲しいと、本気で思った相手だから。

 環と話している陽芽子の楽しそうな横顔をぼんやりと眺める。

 今まで啓五に近付いてきた女性は、本当の意味では誰も本気になってくれなかった。

 ダーツもそうだし、ビリヤードもそう。むずかしいよぅ、出来ないよぅ、と猫なで声を出して、大した上手くもない遊戯の腕をわざとらしいほど大袈裟に褒める。彼女たちはそれが女の役目だと思っていて、啓五自身もそれで構わないと思っていた。

 けれど陽芽子は違う。純粋にゲームを楽しんで、勝負に本気になってくれる。女の象徴であるハイヒールを脱ぎ捨てて、負けず嫌いな子供のように真剣になってくれる。ただのゲームでも、啓五との時間を楽しんでくれる。そこには社会的地位も、年齢も性別も、一ノ宮も関係ない。

 そんな時間を過ごせることが嬉しくて、いつの間にか啓五も本気になっていた。ゲームだとわかっているのに、負ければやっぱり悔しかった。

 自分も夢中になっていたと気が付くと同時に、啓五の眼を『きれいでかっこいい』と言った陽芽子の言葉を思い出した。
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