スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「……はーん、なるほど。わざと流してんのか。やることが小賢しいねぇ」
怜四が唐突に合点がいったように頷く。さらに穏やかではない言葉ばかりを羅列し、クククと喉で笑う。
「お前、狙われてんだなぁ」
「……誰に?」
意味不明のことばかり言う怜四の顔を見上げる。狙われてる、と言われ最近観たスパイ映画のワンシーンを思い出す。脳内で見知らぬ男に狙撃される自分の姿を想像して『何でだよ』と思ったが、怜四の表情は愉快そうだった。
「それで? 別のヤツと付き合ってんの?」
啓五の質問には一切答えず、巧妙に話をすり替えてきた怜四にはほとほと呆れてしまう。だが正直なところ、鳴海と噂になっていることよりもそちらの方が由々しき問題だった。少なくとも啓五にとっては。
「今のとこ、完全に俺の独り相撲だよ」
「へえぇ」
言わなくてもいい報告をすると、怜四が興味津々と言った様子で感嘆した。瞬間的に余計なことを話してしまったと思ったが、すでに後の祭りだ。
一ノ宮怜四という人は、他人から情報を引き出すのが天才的に上手い。目線、唇の動き、手足の動き、姿勢、相槌、声の抑揚、言葉選び、間合い。これらを自在に操って相手の心の隙間にスルリと入り込んでくる。その能力がずば抜けている。
そのせいか、彼を前にすると言わなくてもいいことをつい口にしてしまう。上手く誘導されていると気付いているのに、あっさり心情を吐露してしまう。
「……恋愛話なんて、自分の息子とすればいいだろ」
「ヤダヨ。あいつらの相手するんの疲れるし、つまんねーもん。それに比べれば啓五は素直で楽なんだけどなぁ」
「楽って言うな」
甥を相手に失礼だろう。
いや、甥だからこそ明け透けにものを言うのかもしれないが。