スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

「でもお前、変わったよ。少し前までは目付き悪いだけのクソガキだと思ってたからなー」
「悪かったな」

 怜四の昔を懐かしむような言葉を聞いて、啓五もつい無愛想な言葉を返してしまう。だが粗雑な言葉とは裏腹に、怜四は人情深い人だ。実の息子だけではなく、甥のことまで気にかける度量がある。

 けれどその事実に気が付いたのは、つい最近のこと。副社長という安定した地位に就くまでは、啓五もがむしゃらだった。自分でも心に余裕がないことを自覚できるほど、周囲の人間を敵視していた。

 それほど焦っていたのだと思う。自分に負けそうになっていたのだと思う。 

「まあ、俺も……今までは自分の目、あんまり好きじゃなかったな」

 今までは。
 陽芽子がこの眼を褒めるまでは。

 でも今は違う。陽芽子が褒めてくれた日を境に、驚くほど気持ちが楽になった。実際にはさほど珍しくもない、けれど一ノ宮にいる限り疎まれ続けるこの特徴的な目を、陽芽子なら受け入れてくれる気がして。

「へえ、運命のお姫様に出会ったワケか」

 また数か月前の夜にトリップしていると、怜四の楽しげな声が聞こえてきた。

「それなら尚更、お前が守ってやんねぇと」
「だから何が?」

 怜四は、狙われてるとか、守るとか、意味がわからない事ばかりを言う。もし啓五が知らない何らかの事情を知っているのなら、ちゃんと教えて欲しい。知らないことには対処のしようがない。

 そう思ってさらに踏み込もうとした瞬間、隣の秘書執務室から鳴海が戻ってきた。

 鳴海の姿を確認した怜四は、突然奇妙なほど静かになってしまう。それに気付いた啓五も、同じく黙るしかない。

 怜四の言動は不可解だった。そこに不安を植え付けられ、不満と違和感を覚える。だが結局は何も聞けず、ライターを受け取って去っていく後ろ姿をじっと見送るだけだった。
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