スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
3章

誤解


 毎日の無言電話は、もうすぐ三か月目に突入する。いやがらせが始まった時点でコールセンター課長である春岡には相談していて、二か月目に入った時点でサービス事業部長とも情報の共有は行っていた。だがこれ以上問題が長引けば、部署内の案件として留められなくなってしまう。

 上層部の手を煩わせる前に何とか解決したいし、何より部下たちのストレスも蓄積してきている。春岡の判断で記録作業は減ったが、彼らの疲労は明らかだ。

 こうなった時、直接受電することがない責任者に出来ることは限られている。陽芽子は今日も部下たちが退社したあとのお客様相談室で、録音された通話記録を聞き続けていた。

「白木!」
「ふわっ!? はい!」

 聴覚に集中していて意識が現実になかった陽芽子は、左肩を叩かれて思い切り飛び上がった。耳に入っていた両方のイヤホンを抜いて勢いよく顔を上げると、すぐ隣に心配そうな顔をした春岡が立っていた。

「課長……びっくりした、脅かさないで下さいよ!」
「驚いたのはこっちだ。何度も呼んでるのに反応がないから、死んでるのかと思ったぞ」
「死んでません。寝てもいません」
「さっきから何してるんだ?」

 驚くから急に声を掛けないで欲しい。けれど両耳にイヤホンを入れまま集中しすぎていたのは陽芽子が悪い。バクバクと早鐘を打つ心臓を鎮めると、訝しげな視線を向けてくる春岡に応対記録の管理画面を見せる。

「ああ、無言電話のか」

 今の陽芽子に出来ることは、録音されているオペレーターとの音声内容を聞いて、そこから解決のヒントを探ることのみ。

 これが刑事ドラマでよく見る逆探知システムを使えるのならば、相手を特定して相応の対処をすることも出来るだろう。けれど一企業のただのコールセンターにはそんな権限も設備もない。だから今は、録音された音声をひたすら聞いて、そこから手がかりを見つけるぐらいしか出来ないのだ。
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