スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
妙に優しい口調で褒められ、つい照れてしまう。
啓五が声の話をしているのはわかっているが、まるで愛の告白をされている気分になってしまう。気恥ずかしさから困惑していると、啓五がさらに大胆なことを言い出した。
「ほんとは添い寝して欲しいんだけど」
それは以前にも言われたことがある。前回はゲームで勝ったときの報酬だった。またあの時と同じ冗談なのかと思ったが、啓五の瞳はあの日以上に本気だった。
今度こそ何も言えなくなっていると、スマートフォンを取り出した啓五に『ほら』と促され、とうとう連絡先を交換する流れから逃れられなくなってしまう。
しぶしぶ交わしたのは電話番号のみだったが、優秀な同期機能のおかげでメッセージアプリの新規メンバーにも啓五の名前が表示されていた。
「いつでもかけてきていいから」
「え……?」
「毎晩、寝る前に電話くれてもいいけど」
啓五の誘い文句に、直前まで行っていた連絡先の登録作業の手が止まる。顔を上げた陽芽子は驚いた表情をしていたらしく、視線を合わせた啓五も首を傾げた。
「どうした?」
「あ、ううん……そんなこと言われたことないなぁって思って」
啓五の要望は、今まで付き合った人には誰にも言われたことがない言葉だった。
陽芽子の仕事は、電話を受けたりかけたりすること。その応対には丁寧かつ正確な言葉遣いが要求される。今でこそ責任者という立場になったが、以前はオペレーターとして応対もしていた。
「私と電話するの、事務的で嫌だって言われちゃうんだ」
そのせいか、電話越しだとどうしても丁寧すぎて堅苦しい言葉遣いになってしまう。会って話せば普通だけれど、電話をすると無意識のうちに距離感が遠い会話ばかりしてしまう。