スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
『始業時間までには復旧見込みらしいが、明日は早朝出勤してもPCが使えないからな』
「あ、大丈夫です。ギリギリまで寝ていたいので、朝は定時にしか出勤しません」
『野坂と同じこと言ってる』
心配しなくても陽芽子は朝早くに出勤して仕事をするタイプではない。それでも普段と異なる状況が発生したならば、課長として部下に伝達しておかなければならないのだろう。
こういう時のために、出来れば春岡にもメッセージアプリの使い方を覚えて欲しい。だが陽芽子の上司は、いつまで経っても古典的な連絡網スタイルを変えられずにいる。
『お楽しみ中だったか?』
「いえ……」
用件の確認を終えると、春岡が急に話題を変えてきた。陽芽子は即答で否定したが、その一言の中に春岡のからかいが含まれていることに気が付く。
「って、何度も言ってますけど、誤解ですからね!?」
『わかったわかった。誰にも言わないから』
「違いますから! ほんとに!」
誰に言う、言わないではない。案の定、陽芽子と啓五の関係を勘違いした春岡は、あれから必要以上に陽芽子のプライベートを優先させたがるようになった。けれど陽芽子は、啓五と付き合っているとか、秘密裏に逢瀬を重ねているとか、そういう関係ではない。
たまたま同じバーの常連というだけで、次の約束をしたことさえない。一度だけ夜を共にしたことはあるが、あれは啓五が副社長だと知る前で、春岡にも勘付かれていない話だ。
だから啓五とのことで揶揄うのは止めて欲しいと思うが、言えば言うだけ春岡が喜ぶ材料が増えてしまう。
『じゃ、そう言うことで』
「あ、はい……連絡ありがとうございます。では、また明日」
『ああ、お疲れさん』
ひとしきり陽芽子で遊んだ春岡が電話を切ったことを確認すると、陽芽子もため息をつく。
メンテナンスか……システム管理部も人手不足だから大変だなぁ、なんて考えていると。
「陽芽子」