スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
啓五が望んでくれるのは嬉しい。でも一時的な関係で終わるなら、これ以上は止めておくべきだ。お互いの為を思うなら、お互い別の相手と恋に落ちるべき。わかっているのに。
「陽芽子も、俺のこと嫌いじゃないだろ?」
真剣な声で核心をつく確認をされて、思わず言葉に詰まる。
啓五も見抜いている。陽芽子の気持ちを理解している。啓五が陽芽子を好いてくれるように、陽芽子も啓五を好いていることを。嫌いどころか、もう戻れないぐらいに惹かれていることを。
可愛いと褒められることも、週に一度の他愛のない時間も、喜怒哀楽の感情を共有できることも、好きだと言ってくれるその想いも、本当はとても嬉しい。
自分の気持ちは自覚している。
けれど、理性が邪魔をする。
「ごめんなさい。私、啓五くんと付き合うわけには……」
啓五は雲の上の存在だから。
結婚したい陽芽子と違って、結婚願望のない年下の男性だから。
一時的なものじゃない。陽芽子は自分だけに本気になってくれる人がいい。だからこの恋は認めない……諦めたいのに。
「私のこと、本当に好きって言ってくれる人がいいの」
「だから、言ってるだろ?」
手のひらの中に啓五の指がするりと入り込み、恋人のように繋がれる。けれど優しい触れ合いに反して、その力は強くて激しい。そのままドアの上へ腕を押さえつけられ、陽芽子の行動を阻止する言葉ばかりを紡がれる。
「俺は、陽芽子が好き」
「んっ……」
「……好きなんだ」
耳に落とされたキスがだんだん下へと降りていく。そのくすぐったさに身を捩る合間にも、頬や首筋を辿っていく啓五の唇は直球で明確な言葉を囁く。
「なぁ……陽芽子が欲しい『本当の』好きとか愛って何? それって、年齢が一番大事?」
陽芽子の葛藤を見抜いたのか、啓五が不機嫌に問いかけてきた。心の中どころか未来まで見通しているような鋭い瞳が、退路を静かに塞いでいく。陽芽子の逃げ道に鍵をかけて、その鍵穴を潰すような問いかけばかりを注ぎ込む。