スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「年下の言うことは、本気にしてもらえない?」
「そんな、こと……」
「陽芽子より年上だったら、俺に惚れてくれんの?」
「……」
つい言葉に詰まってしまう。だが本当は、啓五の言う通りだ。
年齢を理由に相手の気持ちを拒否するなんて、やっていることは陽芽子の元恋人と同じ。『若い子がいい』なんて辛辣な言葉をかけられて傷付いた経験があるくせに、今は自分が『年齢』を理由にしている。
矛盾している。わかっている。
「……ごめんね」
それでも陽芽子は頷けない。今ここで啓五の気持ちを受け入れても、いつか彼が離れて行く気がして。陽芽子じゃない誰かを選ぶ気がして。
今度は耐えられる気がしない。いや、もっと大きなダメージを受けると思う。こんなにも情熱的に欲してくれる人にさえ『やっぱり他の人が好き』なんて言われたら――
啓五の身体を押し返し、身体を離そうとする。手遅れになる前に、彼の瞳から逃れるために。
「逃げんの?」
「っ……!」
逃亡を感じ取ったのか、啓五の行動は早かった。再び正面から強く抱きしめられ、耳元に唇を寄せられる。
「ちゃんと俺の本気を知って――教えるから」
「え……だ、だめ……! ……まって……!」
熱さと冷たさが混ざり合った声が鼓膜の奥に響く。低く掠れた声と鋭い視線に危険な甘さを感じたが、逃亡の暇も制止の暇も与えられず再び唇を重ねられた。
「んぅ……っ」
唇の上を辿る舌の感触はやわらかいのに、空気を奪う温度は凶暴なまでに激しい。先ほどまでは陽芽子の息継ぎや制止を受け入れてくれる態度を感じられたのに、今はただ飢えた獣に夢中で喰われている気分を味わう。
「ふ、……ぁっ」
ねっとりと這う舌から、ほろ苦いコーヒーリキュールの味とアルコールの香りがする。スーツの裾をぎゅっと握ると、その様子に気付いた啓五はすぐに唇を離してくれる。けれど陽芽子が何かを言う前に、また唇が重なる。優しく激しく、何度も、食い尽くすように。
本気を、覚え込ませるように。