スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「ゃ、あ……まっ」
啓五の手が後ろに回る。背中に触れた指が腰の上を撫で、更に下へと降りていく。熱を持った指先がブラウスの裾から中へ滑り込むと、肌を直接撫でられる感覚に身体がぴくっと跳ねた。
啓五の手が何をしようとしているのかを知ると、甘いキスに溺れていた身体に、突然力が戻ってくる。スーツの裾を掴んでいた手を、互いの身体の間へ捻じ込ませる。
「待って……ってば!!」
腕に力を入れると、すぐに身体は離れた。けれど不満そうな顔をした啓五の黒い瞳からは灼熱の温度が消えていない。言葉の通り、啓五は『本気』なのだと思い知る。
だから再び抱きしめられる前に、言葉ではなく態度で意思表示をする。陽芽子も本気にならなければ、成人男性である啓五の本気には勝てないだろうから。
啓五の顔に両手をのばしてその頬を包み込む。陽芽子から頬を撫でて触れてきたことに嬉しそうな顔をしたが、それは本当の一瞬だけ。
油断している啓五の額に、自分の額を勢いよく押し付ける。
ごんっ、と鈍い音が鳴る。
押し付けるというより、頭突きかもしれない。
「……いて。……え、何すんの?」
突然の陽芽子の攻撃に驚き身体を離した啓五が、目を大きく見開く。何が起きたのかすぐにはわからなかったらしく、左手で額をさすっている。
「『何すんの?』」
何もわかっていないような顔をする啓五の表情を見て、陽芽子はむぅっと頬を膨らませた。
「それはこっちの台詞でしょ!?」
何するの、は陽芽子の台詞だ。
確かに啓五が必死に愛情を伝えてくれるのは嬉しいし、その本気は伝わっている。
けれど春岡との電話を切った直後から、何かを言おうとする度に唇を塞がれてしまう。啓五の感情表現は一方通行で、言いたいことがあるのに何も言わせてもらえない。陽芽子の話をまったく聞いてくれない。