スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「いやって言ってるのに、無理矢理キスするし! 待ってって言ってるのに全然待ってくれないし! だめって言ってるのにその先は言わせてくれないし!」
不満と不安が押し寄せる。溜め込んでいた感情を一気にまくし立てる。その様子を見た啓五は、ぽかんと口を開けて陽芽子の顔を見つめてくる。そんな啓五を、さらに強めの口調で叱る。
「啓五くん、副社長なんでしょ!? 秘書や部下の話、ちゃんと聞いてあげてるの!?」
「え……いや、聞いてるけど……」
「うそ! 聞いてないでしょ!? そうやって何でも自分の思い通りになると思ったら大間違いなんだから! 人の上に立って会社を背負っていくつもりなら、ちゃんと周りの話も聞いてよね!?」
「あ……え……ご、……ごめん?」
陽芽子の指摘は的外れかもしれない。啓五は全てを自分の思い通りにしたいと思っているわけではなく、周りの意見もちゃんと聞いているのかもしれない。陽芽子が知らないだけで、仕事中の啓五は完璧な副社長なのかもしれない。
それでも言っておきたかった。
ちゃんと伝えておきたかった。
話を、聞いて欲しかった。
心配そうに顔を覗き込んできた啓五と視線を合わせないように、俯いたままで息を吐く。呼吸と思考を整えて、ぽつりと呟く。
「……私、無理強いする人きらい」
「!! いや、その……わ、悪かった……! ごめん!」
ふいっとそっぽを向くと、啓五が慌てて謝罪してきた。しかし謝られても視線は意地でも合わせない。
けれどそれは、啓五に対して怒っているからではなく。
「……少しだけ、待ってほしいの」
視線を合わせたら絆されてしまいそうだから。その瞳に見つめられて、また『好きだ』と言われたら『うん』と頷いてしまいそうだから。冷静な判断が出来なくなってしまうから。