スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
「無言電話との紐付けが出来ない以上、案件としてはリセットでしょうか?」
「そうだな。判断が難しいところだが……」
報告を受けた春岡も、腕を組んで低く唸った。これはお客様相談室長の陽芽子としても厄介な案件だが、課長の春岡としても頭の痛い案件だろう。
「相手はなんて?」
「それが、特に要求があるわけではないんです。ただ商品が美味しくなかった、この味で売れると思えない、と」
「あの温度で?」
電話の向こうの相手は、激しい口調で商品の欠点をわめき散らしていた。あの大激怒は『異物が混入していた』『開けたら中身が違った』などの大きな問題が生じて、相当の損害を被ったときの怒り方だ。
もちろん製造ラインではミスのないよう管理を徹底しているし、実際にそのような問題が生じた報告もない。
だから余計に、奇妙に思う。
確かに発売している商品が顧客の好みに合わないことはある。価格が不釣り合いだと感じさせてしまうこともある。店頭に希望商品が入荷していないこともある。けれど。
「変だな」
「変、ですよね」
わざわざお客様相談室へ電話をかけてくる人は、不快の代替として何かを要求してくることが多い。
最も多いのは返金や商品交換の希望。他には商品の詳細説明や安全性の調査依頼といった実現可能なものから、自主回収・責任者の謝罪訪問・ホームページ等への謝罪文の掲載・経営陣の退任など明らかに理不尽な要求をされる場合もある。もちろん後者の要求は、過失があると認められない以上、参考意見を頂戴するという形で終了することが多い。
けれど今回は、相手からの要求が一切ない。希望があれば可能な限り対応するが、彼はただ不満を言って大声で怒鳴っているだけだ。コールセンターはストレスの捌け口ではないと言うのに。
「また長引きそうだなぁ」
「……はぁ」
春岡のため息を聞いた陽芽子も、ただ気が抜けたような返事をするしかない。
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