スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
予想はしていたが、やはりクレーム電話が一日で終わることはなかった。
11時と17時に必ず掛かってくる、激昂した男性からの非通知の抗議電話。同じ言葉を一方的に怒鳴り続け、要求らしい要求は一切述べない。まるでストレス解消のためにお客様相談室を利用しているのではないかと思ってしまう。
問題のある電話が掛かってくると、責任者である陽芽子はそのやりとりをリアルタイムでモニタリングする。実際に顧客と話すオペレーターは毎回異なるが、責任者である陽芽子はすべての会話を聞く必要があるのだ。
今日は金曜日なので、このサイクルが始まってから三日が経過したところ。さすがに、疲れた。
今週の火曜日は啓五に連れ出されてしまったので、楽しく酔うことも出来なかった。いつもなら甘いカクテルで流す週明けの憂鬱も全く癒せていない。完全にエネルギー切れだ。
「たまちゃん。火曜日ごめんね」
「いや、別にいいけど……」
金曜日にIMPERIALに来るのは久々だったが、環は笑顔で陽芽子を迎え入れてくれた。
環が用意してくれたファジーネーブルは、桃の甘さにオレンジの酸味がほどよく溶け合ったフルーティーなカクテルだ。その優しい味と爽やかな香りが、陽芽子の苦い三日間を潤してくれる。
桃と柑橘の香りに癒されて気が抜けていると、見ていた環がくすりと笑った。
「陽芽ちゃん、啓になんかされた?」
「なっ……っふ、けほっ……!」
環の何気ない一言にオレンジの種が喉に詰まったような苦みを感じて、思いきりむせ込んでしまう。
「警察行く?」
「いっ、いい! ちがうの! 別に嫌なことをされたわけじゃないから……!」
「へぇ……ふ~ん?」
環は何かすごい想像をしているのかもしれない。
確かに啓五の部屋に連れ込まれて、激しい感情をぶつけられて、たくさんキスをされた。だがひどい事をされたわけではないし、嫌だったわけでもない。やりすぎたところはやり返したし、説教もした。それに告白の返事をちゃんと考える時間ももらった。だから陽芽子は怒っていないし、悲しんでもいない。