スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない

 啓五の真剣な告白を思い出して照れていると、環がご機嫌に笑う。まるで妹を揶揄う兄のように。

「あいつ、ほんとベタ惚れだよなぁ」
「え、そ……そんなことないでしょ。だって啓五くん、一ノ宮の御曹司だよ? うちの会社の副社長だよ……?」

 陽芽子の言い訳を耳にした環が、氷を割っていた手を止めて顔を上げた。見つめ合った茶色の瞳に呆れの色が入り混じる。

「だからさ『恋愛は条件でするものじゃない』って、いつも言ってるじゃん」
「そ、そうだけど……」

 確かに環は常日頃から、恋愛には性別も年齢も国籍も関係ないと言っている。収入やお互いの立場さえ、恋に落ちる瞬間には無関係だと言う。それは陽芽子も、身をもって知っている。

「でも私、啓五くんに何もしてあげられないもん……」

 環の勘はやけに鋭い。恐らく、陽芽子が隠した感情にもちゃんと気が付いている。自分の気持ちを受け入れることをためらっていることも。恋に落ちないように必死に歯止めを掛けていることも。

「なんも出来なくても、啓はどんどん陽芽ちゃんにハマっていく気がするけど」

 返答を聞いて氷を割る作業に戻った環が、嬉しそうに呟く。

「啓がこんなに執着してんの初めて見るから。陽芽ちゃんに電話が来たあとの慌てっぷりは、ちょっと面白かったな~」
「そ、そうなんだ……」
「誰かに執着されることは結構多いけど」

 環の何気ない一言に、それはそうだろうと思う。

 整った容姿と鋭い目線から冷たい印象を受けがちだが、啓五は意外と明るくて人懐こい性格だ。それ以前に一ノ宮の御曹司で大企業の副社長である。そんな完璧で有望な男性を世の女性たちが放っておくはずがない。

「この前も、二人が帰ったあとにきた女の子が啓五の名前を出してきて」

 環に聞かされた意外な情報に、思わず驚いて顔を上げる。
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