お見合い相手が変態御曹司でした
おまけのお話

0. 新宿駅にて

 上海から成田まで約三時間。
 眠ってしまうには中途半端な時間なので、帰国前にメールで提出した、輸出入決済に関する国家外貨管理局の報告書(レポート)を読み返す。
 上海で過ごしたのは約一年。帰国する度に両親から「結婚しろ」と言われ困っていた。

 私は再来月には銀行を辞めて、父の会社の役員になることが決まっている。また、何度もお見合いをさせられるのかもしれない。
 私には結婚するつもりなどないのに……。


 成田エクスプレスで新宿駅までさらに九十分。
 ロータリーに迎えの車が来ているはずなので、西口改札を目指した。
 多くの乗降客が利用しているのに、バリアフリーには程遠い新宿駅。エレベーターはホームの端に一機しかなく、列にはベビーカーを押す母親やお年寄りが並んでいたので、カートを抱えて階段を降ることにした。

 ちょうど帰宅ラッシュの始まる時間帯でもあり、地下通路は相変わらずの人込みだった。
 先を急ぐ人の歩みは速く、私とは歩調が合わない。人に追い越されながら通路の端を歩いていると、数メートル先に自分と同じくらいのペースで歩いている女性に気づいた。

 足首が細くて綺麗だ。なんて理想的。
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