それでも、先生が好きでした。





「なっちゃん、顔あげて?」


しばらく頭を下げた状態で

静止していたあたしに


先生の優しい声が注ぐ。



そっと顔を上げると


「携帯出せる?」


先生はそう言って

あたしに右手を差し出した。



「え?…あ、はい。」



先生が今からしようとしてること―…


なんとなくわかったが

あたしはそれが信じきれずに


驚きを隠せぬまま

制服のポケットから携帯を取り出した。


「ありがと」


そんなあたしとは裏腹に

先生は微笑みながら

あたしの手から携帯を受け取る。




…先生が触れた場所が

そっと熱を持つ。



そんなことは知るハズもない先生は

涼しい顔であたしの携帯を操作していた。


「はい」


10秒足らずで

再びあたしの元に帰ってきた携帯のディスプレイには




「それ、俺の携帯だから」




綺麗にならんだ

9つの数字。





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