それでも、先生が好きでした。
先生の指が涙をすくう度
大きく跳ねるあたしの心臓。
先生に聞こえてしまうんじゃないか…
本気でそんなこと思うほど
あたしの心は高鳴っていた。
安心感と、嬉しさと、緊張と。
いろんな想いの詰まった涙は
なかなか止まることをせず
やっと止まったとき
「なっちゃん、泣き虫だったんだな」
先生は苦笑いしながらそう言って
「…よし!
じゃあ、今日はもう帰れ!」
あたしの頭をポンッと叩くと
ベットから立ち上がった。
「…あ、鞄」
あたしもベットから出ようとした時
荷物がここにないことを思い出し
ポツリと言葉が零れた。
「なら、そこにあるけど?」
小さな嘆きは
静かなこの場所では先生まで届いたようで
先生の指さす治療用の長椅子には
あたしの鞄が置いてあった。