それでも、先生が好きでした。





「なっちゃんって、お弁当だっけ?」


ひとしきり笑ってから

先生はそう問うて来た。


「あ、はい。

お母さんに作ってもらってます。」


まだ恥ずかしさが残るあたしは

視線を合わせずに答える。




「美味しいだろ?」




その先生の声は

今まで聞いたどんな声より

優しい気がした。




おもわず顔を上げれば

あたしを真っすぐ見て微笑む先生。




「なっちゃんへの愛が

いっぱいのお弁当だろ?」






…あたし、ダメな子だね。




毎日、何気なく食べていたお弁当。


考えてみれば

母は忙しい中で

お弁当だけは毎日必ず作ってくれていた。



栄養を考えて

色合いを考えて



疲れていたとしても

いつも気を配っていた母の愛が


その小さな箱に込められていたこと


今、はじめて気付いたんだ…






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