それでも、先生が好きでした。





「迎え来たぞ―」



重たい空気を壊すかのような明るい声と共に

部屋の扉が開けられた。



声のした方を見れば

最近は中まで迎えに来てくれるようになった拓哉が

そこに立っていて




「…はっ!?

え、どうした!?」




あたしと目が合ったとたん

焦りをあらわにしながら

あたしの側に寄ってきた。





「…どうした?」





あたしの顔を覗き混むようにしゃがんだ拓哉は

幼い子をあやすかのように

やさしく声をかけてくれる。



そんな優しさに

あたしは慣れていないから





関を切ったかのように

泣きだしてしまった。





「先生…

何したんだよ?」



あたしにかけてくれた声とは程遠い

低く、かすれたような声が聞こえる。



疼くまったあたしには、何も見えないのだけど


拓哉が怒っていることだけは

明らかで。





「今日は、もう帰れ」





そんな拓哉に刃向かうような

先生の冷たい声に



あたしの世界は色を無くした。





< 85 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop