となりの紀田くん



宛もないのに
無我夢中で走り続ける





海から少し離れた
狭い歩道に紀田と要さんの
姿が見えた………





私は近くの物陰に隠れて
二人の様子を伺う………





声は全く聞こえないけれど
何か揉めてるようだ。





紀田が要さんを鋭く睨み付け
何か喋りながら彼女の腕を掴む






要さんも負けじと言い返して
いるようだが………
ついには紀田の手を振りほどいて
どこかへ歩いて行ってしまった。





私は要さんの姿が完全に
無くなるのを確認するなり
紀田に勢いよく近づく





「紀田!」





「ゆ、ゆあ!?」





驚いたのか目を見開いて
私を見つめる紀田……





私が何も言わないでいると




「もう大丈夫なのか?」





と優しい声で聞いてくる紀田。






「大丈夫………それより、鈴から聞いたよ……私のこの事故は……要さんの仕業なんだってね……」






「ああ……ごめんな。俺がゆあから離れなければ………」





優しさと哀しみが込められた
声で謝ってくる





そんな声で謝らないでよ…………
悪いのは紀田じゃないのに





そこでふと



"だって裕也には私が"



要さんの言葉が頭を過った。

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