となりの紀田くん



弓道場にて。




真剣な面持ちで
弓を手にして




全ての邪念を捨てた
真っ白な瞳で
的あてを深く
見据える梓くん




そして勢いよく
矢を放つーーー




ヒュンッ




放った矢は見事的中





これで一体何本目だろう





「………わぁ」





私は思わず声を
漏らしてしまうくらい
その姿に魅了していた。





「いや、やっぱ弓道は難しいね!」





ゆっくりと立ち上がり
上品に歩きながら
梓くんが笑う。





「いや!十分凄いよ!!」




「ありがとう!ちょっと休憩」





「そだね!」





って………
私は何にもしてないけど…





先輩たちの邪魔にならないよう
弓道場近くの裏庭へ行き
二人で腰を降ろすーーー






「いやー、今日は良いもの見せてもらったよ!ありがとね」






「いえいえ。ってゆーか、今日ゆあちゃんを呼んだのは……ちょっと相談があるからなんだ」






「相談?」






梓くんが凄く真面目な顔を
するから、私も自然と
真顔になってしまう…





「そう……鈴ちゃんのことなんだけど……」





「鈴?………あぁああああああ!!」





一瞬、鈴の名前が出てきて
不思議に思ったが
すぐに思い出した





そう、それだよ!!!





私が海で梓くんに
聞きたかった事は!!!






「ゆあちゃん……声大きい」






「ご、ごめん」





梓くんが眉間に皺を寄せるから
ついつい謝ってしまう。






「OK!相談乗るよ!!」





「ありがとう!」





「そのかわりに………」





「…………そのかわりに?」






ジリジリと怪しい笑みを浮かべて
近づく私から遠ざかるように
後退りする梓くん………




しかし、私のニヤニヤは
止まらない………。


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