夢物語
朝、外の音で目を覚ます。

そして起きたらカーテンを開ける....

なんてことはしない。

朝起きたらやる事は、スマホを見て顔を洗って簡単に朝食を食べるだけ。

カーテン開けて白湯飲んで....なんか、心内が美しい人がやる事だ。

私は一生やる事はないだろう。

「今日は快晴。」

そう言いながらテレビをつける。

「ビンゴ。でも少し暑いな。」

初夏といえども昼間の温度は高い。

涼しそうな服に着替えて家を出る。

「....あっつ。」

眩しくうるさい日差しに顔をしかめる。

高校時代の彼女達がいたら、日焼けが〜とか言ってうるさいんだろうな。

そんな事をふと思った。

「はぁ。」

車のエンジンをかける。

左右をよく見て車を発進させる。

私は安全運転しかしない。

危険運転を心がける運転手なんぞいないだろうが、そこら辺のサラリーマンよりは注意深い。

車は危険だ。人間なんかトマトみたいに潰せるんだ。

車が持つ危険性をぐるぐる考えるとキリがない。

車内ミュージックの音量を上げる。

初夏の日差しの下、黒い車を走らせた。










数時間後、私は大きな公園に着いた。

土手沿いにある広いこの公園には、人はいない。

そのかわり、真ん中に大きくそびえ立つ桜の木がある。

それは高校時代よくあの六人で集まっていた場所だった。

春になると花が大きく咲き誇る。

なのに人がほとんどいなかったため、私達にとって最高の花見場所だった。



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『秋とかもいいけど、やっぱ春が1番綺麗だな〜ここは。あ、二十歳になったらみんなでお酒を飲もうよ。』
『いいね〜。その頃は誰かに彼氏できてんのかね〜。』
『誰もいなかったりして〜』
『うわ、ちょっとやめてよ....。葬式みたいな飲み会想像しちゃったじゃん....。』
『彼氏いなくていいもんね〜酒の力借りていい男引っ掛けるし〜』
『別に彼氏いてもいなくてもいいけどさ...』

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『その時、みんなで幸せだねって言えるといいね。』
彼女が言ったその言葉が、今でもずっと頭に残っている。

「....それで、あんたらは今幸せなの?」

そう言い、五つの花束と五つのビール缶を木の根元に置く。

彼女達が言っていた「その時」は、来なかった。

「その時」を迎えたのは、私一人だけだった。

「嘘つきだね。五人ともさ。」

彼女達は19歳のこの日、この世を去った。

「大人になる前にみんなで集まって、最後の夏を満喫しよう。」そう言ってたっけ。

六人で大人の前の最後の大騒ぎのために、みんなでたくさんやりたい事を決めた。



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『どうする〜?車持ってるの私しかいないしね〜』
『じゃああんたがみんなを拾って足になってよ〜』
『ダルっ!』
『いいじゃんそれで!』
『しょうがないな〜』

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その時はまだ、私は免許を持っていなかった。

それに大学が他の五人より遠いところにあったため、五人とは離れて暮らしていた。

だから免許を持っている一人の車に五人が乗って、私の元へ来てくれる事になった。

ここの美味しい食べ物、全部教えてあげよう。

綺麗な海もあるし、ここは星も綺麗だ。

五人に見せたいものがありすぎて、その日が待ちきれなかった。

そして当日。

[出発しま〜す!そこで待ってろ無免許女!]

そんな煽りたっぷりのメッセージと共に、少し垢抜けた五人の写真が送られてきた。

あぁみんな変わったけど変わってない。

そう思ったっけ。

ついでに鼓膜が破れそうなほどうるさいボイスメッセージも送られてきた。

そして、その写真とボイスメッセージが、私が見た最後の彼女達だった。

交通事故だった。

原因は飲酒運転だった。

飲酒をしていたのは彼女達ではなく、彼女達の車に突っ込んできたトラック運転手だった。

その日、高速道路で起きた4tトラックと普通車の衝突事故で、五人の女性が亡くなったと地方のニュースで報道された。

幸せな日になるはずだった。

壊れてしまった。

何もかもが無くなってしまった。

一瞬で地獄に落とされた。

幸せだねって、大人になったら言うんじゃなかったの?

私は幸せって言う準備、できていたのに。

あなた達とたまに会えるなら幸せだよって、恥ずかしいけど言うつもりだったんだ。

もう言えなくなってしまった。

苦しかったよね。痛かったよね。それとも、そんな事感じる暇もなかった?

最後にいったい何を思ったの?

私と会って、最初に言う言葉は何だったかな。

「変わってないな〜」かな。

それともすぐに「アイス食べよう〜」って言ったかな。


私は深い悲しみに堕ちていった。

もう二度と戻る事はできなかった。

あんなに頑張って受験勉強をして、入学後も好きな事を学んで頑張っていた大学も辞めた。

廃人同様だった。

夢に彼女達が出てきては、お前もこっちに来いと私を責め立てる。

彼女達がそんな事を思っていないのは知っているのに。

でも何度も同じ夢を見た。

私はそれからずっと昔の私には戻れない。

私はもう幸せになれない。

「....あんたらが飲もうって言ってた酒、私、飲めないよ。」

私はもう酒が買える。

でも酒は飲めない。

何度も飲もうとした。でもダメだった。

だから毎年この場所に来ては、酒を花と共に置く。

その度に、六人で集まって酒を飲んでいる風景を想像する。

酒を飲んで全てを忘れたいのに。

それができないのはお前らのせいだぞ〜って

自分を騙しながら過去に浸る。

目を閉じれば彼女達の声が聞こえて来る気がした。



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『ほらほら〜彼氏とは最近どうなの〜』
『....いねぇよばーか。』
『うっわサイテー笑笑』
『この前告白されたよ私〜』
『えっうそ!?聞いてないよ』
『言ってない。』
『OKした!?』
『こいつフってたよ。』
『もったいない〜』
『だってタイプじゃない〜』
『....はぁ。男のことしか頭にないわけ?』
『....ハンバーガーの事なら頭の片隅に少しあるよ。』
『....行く?』
『....行っちゃう?』
『ダイエットしてるのに....。』
『どーせ1週間後にはやめてるよ。』
『よーし決まり!ほら行くよ!』

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今でも鮮明に思い出せる



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『うちの子と、仲良くしてくれて....本当にありがとう....。毎日あなたの事、話していたわ。』

『....仲良しグループだったのにねぇ。あの子だけ残っちゃって。』
『ねー可哀想〜』
『私だったら耐えられないわ....。』

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棺桶に入ってるあなた達の顔、私見ていないよ。

見せてくれなかった。

見なくて正解だったのかな。

「....帰ろう。」

彼女達に別れを告げて家に帰る。

六年前からここに通っている。

月に一度、この日にここへやって来る。

その度に、あなた達に会いたいと思う。

私が生きる事を辞められるまで、通い続ける。

「今日も、生き残ったな。」

気づけば、陽が傾き始めていた。

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