夢物語
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息を整えながら鍵を開けようとする。

....そういや閉めてないんだっけか。

「はぁ。ただいま。」

「おかえり〜。」

....え?

なんだ今のは?

ついに精神がやられたのか?

幻聴が聞こえ始めた。

....六年間あの辛さの中生きてきたんだ。

おかしくなってても変じゃない。

「....はぁ。」

「ため息ばっかりはよくないよ〜。」



....今日、私は鍵を閉めていなかった。

部屋から知らない声が聞こえる。

それが何を意味するかなんて一瞬でわかった。

無意識のうちにスマホを握っていた。

空き巣か、強盗か。

強盗なら、私は確実に殺されるんだろうなぁ。

空き巣でも人を殺すんだろうか。

痛いのだろうか。




....もういいじゃないか。

強ばっていた体は一気に力が抜けた。

望んでいた。

自分では死ねないから、誰かにそうしてくれと頼みたかった。

今日が私の命日になるのか。

六年、長かったかな短かったかな。

もうすぐあなた達のところへいくよ。

待っていて。

私はなんの迷いもなくリビングの扉を開けた。












そこに広がるのは、なんの変哲もない私の部屋だった。

....ただ私が壊れただけか。

まだそっちには行けそうにない。

「....はぁ。」

「だからため息ばっk「うわあああああああああああああああああああああ!?」

耳元で聞こえたその声に、六年振りの大声が出た。

すごいスピードで後ろを振り向くと、二十代くらいの若い男がいた。

さっき玄関から聞こえた声の主だろう。

黒髪に銀ピアス。185以上はあるだろうノッポ。

「だ、誰...!」

「君が僕を呼んだのに〜誰かわからないなんて。」

そう言い拗ねるような表情をする彼。

友達のように喋る彼には覚えがなかった。

私がこいつに願った?何を?

「....誰ですか。殺すなら、早く殺してください。」

「なんてこと言うんだ君は...。僕がそんなことするわけないでしょう?」

ないでしょう?と言われても、私はこいつを知らないからわからない。

「強盗じゃ....ないんですか....?」

「ハハッ何を言うと思ったら。違うよ。」

じゃあなんでここにいるの?

「....そうですか。じゃあ人の家に勝手に入らないで。」

「鍵がかかってなかったよ。入ってって言われてるみたいだったよ〜。」

「....そうですか。早く出てってください。」

「だーかーらー!君が僕を呼んだんだってば!なんでそんなこと言うの〜。」

さっぱり意味がわからない。こいつはヤバい奴だ。

「早く出てってください。警察に通報しますよ。」

そう言って、しまったスマホを再び取り出した。

するとさっきまでヘラヘラ笑っていた男は急に真顔になった。

「さっき」

「え?」

「さっき、通報しようとしてたのに止めたよね。どうして?」

「え、いや....それは....」

「僕が強盗だったら、殺してもらえると思ったから?」

「............」

彼の目を見た。

私より高い位置にある目。

目が合って逸らそうとしても、体が動かない。

何か催眠術にかかったみたいに体は言うことを聞かない。

彼の目は真っ黒だった。

その真っ黒な目はしっかりと私を捉えていた。

まるでヒョウのように。

捉えたものは逃さない。そう言ってるようだった。

「そうだったらなに?」

やっと絞り出した私の声は掠れていた。

まるで誰かに搾り出されたかのような声だった。

「へぇ....。」

そういう彼の目が何を言いたいのか、全く汲み取れない。

怖い。

そう思った。

「....っとりあえず、さっさと私の家から出てください」

そうだ。こいつは人の家に不法侵入してきたんだ。

「出ていけないよ〜。」

「はい?」

「君から離れられないんだよ僕。」

「は?」



「僕、君の神様だから。」




......。

バタンッ

玄関の扉をこれでもかと言わんばかりに大きな音を立てて閉めた。

近隣の方に申し訳ない。

「ねぇちょっとー!」
「僕の家なくなっちゃうよ〜?」
「いいのー?」
「君が呼んだんだよ〜!」

ドンドン扉を叩く音がする。

知らない人が自分の家に上がってきた恐怖やその混乱どうこうより、彼の目が、忘れられない。

頭から焼き付いて離れない。

鍵を閉め、うるさい音を背にベッドへ直行した。

一体なんだったんだ....。

『僕に殺してもらえると思ったから?』

何度も頭の中で繰り返されるその言葉。

彼が強盗だったら、私を殺そうとしたら、私はそれを受け入れたのだろうか。

わからない。

ただ、強盗がいるんだと思った瞬間、少し気持ちが軽くなるような気がした。

そして強盗でもなんでもないと分かった瞬間、また重い何かがのしかかった気がした。

「....弱いよ、私は。」

それと同時に、崖で出会ったあの男の子の言葉も蘇る。

一体なんなんだ今日は。

内容の濃い日だ。疲れる。

というか『私が呼んだ』ってどういうこと?

神様?

呼んだ?

その二つの言葉から思いつく事は....

「いやいや、いくら何でも考えすぎ。」

気づけば、もう音はしなくなっていた。

不思議な気持ちのまま、シャワーを浴びてないことを忘れて私は眠りについた。

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