私の…手…! プロポーズは大好きな花に囲まれて。

 「花井さんに、お会いしたかったの、こんな形でごめんない、いつも素敵なお花ありがとう」


 花井さんはちょっとキョトンとしながら、それでも必死に首を左右に振る。


  


 祖母は花井さんの左手をそっと包み、昔話しを始めた。

 「……今の会社は主人と私、数人の従業員で始めたのよ、毎日が油まみれでね、手について油は洗っても中々落ちなくて、主人は魔法の手だと大切にしてくれたのよ。ある時ね、息子が友達に私の汚れた手のことでイジメられて、涙がでたわ、でも息子は負けずに私の手が大好きだとハッキリたのよ、もう嬉しくて。
 私の手で作ったおにぎりも美味しいと食べてくれて救われたわ」




  だから、花井さんの手も魔法の手なのよ。

 
 

   …… ゆずるを信じて……




 私はいつのまにか、ほほに涙がつたい、あとから、あとから、流れ止めることが出来ず。



 
 心の中のトゲが剥がれ、溶けていき、あの時の天気雨から虹が架けられていく。


  宝木さんが私の手に優しくキスをする、一瞬涙は止まったけど、やっぱりまた流れはじめて。




  ……俺はこの手が好きだ……



 

     ずるいです。


   




  
 私はまだ、手袋を外していない、今までは見られたくない、恥ずかしい、でも、これからは違う。




   私の大切な手。




 自分の手にキスをする、今日もよろしくね。




   



 
< 38 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop