その街は幻
『う〜ん……』

きさらぎさんは少し黙っていたけれど、やっぱり何も共通点が思いつかなかったらしい。

『原因も無さそうだね…。あ、そっちにトンカツ屋の大きな看板は見える?』

「あ、はい。私のずっと前の……左前の方に…」

『わかった。』


きさらぎさんは私が不安そうなのを気にしてくれているのか、電話口でずっと世間話をしていてくれた。そして…

『…よし。ミカちゃん、ちょっと前に行ってみてくれる?』

「え、あ、はいっ!」

私は言われた通り、通話にしたまま目の前の通りをまっすぐに歩いて行った。

「あ、あれ?」

また壁のようなものがあって進めない。

『ダメ?』

「はい…ここから先に行けなくて……」

『じゃあ、こっちもこのまま行ってみるよ。』

そう言うと、私のいる大通りの端の方から、きさらぎさんが歩いてくるのが見えた。
周りに人は途切れず、行き来し続けている。

『ミカちゃん。』

きさらぎさんが電話口でそう言って、手を振ってくれるのが見えた。

「はい…!」

私も手を振り返すと、きさらぎさんは近くまで、人を避けながら駆け寄ってきてくれた。 距離は五メートルもないくらい。

『大丈夫?電話は切らないでおいて。今度は繋がらないかもしれない…。先にこれを…』

そう言うと、私に小さな紙箱を投げてくれた。私は落としそうになりながらもなんとか受け取る。

『良かった、物は渡せるみたいだね。開けてないチョコレートだよ。食べられたら食べて?僕の分はあるから。』

「ありがとうございます…!!」

『さて…。この壁はどうしようか…。』

壁、というか、『何か』が邪魔して先に行けない。

「え〜と……」

私は両手を合わせて、きさらぎさんに会いたいと強く祈ってから、壁に向かって手を伸ばしてみた。

「う……」

私は何度か試してから諦めた。壁みたいなのが狭まった感じすらしない。

『ダメかな?』

きさらぎさんは壁になっている所を手で押してみたり、周りを見たりしながら、苦笑いしていた。

『…それにしても、これは何だろう?壊せそうにないしね…チョコレートは通ったし…。何かの『意思』でそうなっているんなら、君のしていたような方法でなんとかできそうだけど…』

「意思…?誰かの考えとか、誰かの想いでこの壁があるってことですか??」

『あぁ、そういうことかな。』

私は少し考えていたら、変なことを思いついた。

「……誰かが、私達を会わせたくない、ってこと…?」

携帯電話ごしにポツリとつぶやく私。

『え?』

「だって…他の人たちは平気みたいだから…。壁で行けなくなってるの、私達だけみたいだし、って……」

きさらぎさんは私の言葉を聞いて、一生懸命考えているようだった。

『……そうかもしれない…。迷い込んだ人間を逃さないため、とか……』

私はそれを聞いて立ち尽くした。鳥肌が立つほど怖くなった。
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