その街は幻
「……。」

『…あ、ごめん!だからこそなおさら、一緒にいたほうがいいかもしれない。なんとか抜け出そう…!』

私が怯えたのが分かったのか、きさらぎさんは力強くそう言った。

「…はい…!」

『じゃあ、この目の前の壁沿いに、それぞれ横から端から端まで歩いて調べてみようか。壁が無い所があるかもしれないしね。』

しばらく二人でそれぞれの方から壁を確認したけれど、高さも手の届く辺りまでさえぎられていた。

「ダメみたいです……」

『こっちも無理みたいだ…。疲れたよね、少し休もうか…。道の端に寄ろう、ここは人が通らないみたいだし。』

壁を挟んでお互いが見えるくらいの場所に、ちょうど人が通らない一角にある店のテラス席を見つけた。

「イスがありました。座ります…」

『ちょうどこっちもベンチがあったよ。』

二人ともそれぞれ座ったまま通話を続けた。

「はあっ…おつかれさまです…!」

『ミカちゃんも疲れたちゃったよね?…それにしても、ここはどこなのかな…?もしかしたら、謎解明が先かもしれないよ?』

「え?」

『謎が解けないと街から出られないかもしれない…。ここがどこなのか、なぜ迷い込んだのか…僕らを閉じ込めたのが誰かの意思ならね…』

「…そうですね……」

そのとき、

ギギ〜…ガシャン!!

と、大きなシャッターを下ろすような音が、少し遠くから聞こえた。

『!!』

「なんの音!?今まで何も聞こえなかったのに…!」

立て続けに同じ音が周りのあちこちで鳴り響いた。周りのロボットみたいな人たちは、変わらずに無表情で歩き回り続けている。

『そこから動かないで!』

きさらぎさんがいきなり言った。

『この音はシャッターを下ろしてる音みたいだ。挟まれる、ってことがあるかもしれない…何も見えなくても。』

「あ…!」

私は言われたとおり、その場所から動かないようにした。

そしてしばらくして、その音はやっと止んだ。

『…もう平気かな…?』

電話口から、きさらぎさんの動いた音がした。きっと、立ち上がって歩き始めた音。
私も慌ててカフェのイスから立ち上がった。

「あ…れ……?」

『両側に壁が出来た…』

私の方は、カフェから出てすぐの場所で、壁に挟まれて手を広げるほどの幅しかなくなっていた。
でも、きさらぎさんがいる方に行く壁が消えたようで、私は走ってきさらぎさんのもとに行く。

「きさらぎさん…!」

「大丈夫!?」

声が直に聞こえるほどすぐ近くまで行けて喜んだのも束の間、手が触れられる程の二人の間に、厚い見えない壁が出来ていた。
つまり、私たちはそれぞれ、戻るしかないよう前と両側、三方向見えない壁に閉じ込められているということ…

「う…そ……」

ビュッッ……

さらにまたその直後、目も開けていられないほど強い風が吹いた。

「あっ…!」
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