その街は幻
風が止んだので目を開けると、もうきさらぎさんは目の前にはいなかった。

「き、きさらぎさんっ…!?きさらぎさぁん!!」

大声で呼んでみたけれど、周りにはもう誰もいない。
…そう、誰もいなかった。

ロボットみたいに動いていた『人』たちも、気づけば建物すらもない。

「ここ…どこ……?」

周りは何もないただの草むら。
さっきまでいたのは『人』らしい人たちもいた、街中だったはずなのに。

空は外なのにただ晴れて、風も無く、なんだかこの場所自体が作り物みたいに不自然で……

「うそ……すいません…っ!誰か…いませんかぁ…!?」

辺りは静まり返っているだけ。
私は仕方なく歩き出した。

(なんかずっと変なことばかり起きる……一人で出かけなきゃよかった…。きさらぎさんも私みたいに、どこかに飛ばされちゃったのかな…)


本当に、土と草しかない道を一人ぼっちで歩いていると、なんだか景色が変わっていった。

道ができた。
道路、とは言えない、土を固めた道。周りはかなり古い造りの家が、ポツポツと見え始めた。

(…あの、ロボットみたいな人たちの家かな…?)

私は怖くなって、先を急ごうと足を早めた。

するとまた周りの景色が変わっていった。
道は少しずつ舗装され始め、古い作りの家は少し昔の感じの家に変わり、店も建ち並び始めた。

(前にテレビで見た、『昔ながら』の商店街みたい…。なんでどんどん歩いていくと景色が変わるの…??…すごく怖い…早くきさらぎさんに会えたらいいな…)

その時、スッ…と、誰かが私の近くを追い越していった。私は気になって、足を止めてそっちを見る。

白い着物の後ろ姿。女の人が礼服で着るようなのじゃなくて、お化け屋敷なんかで幽霊が着ているような、薄い白い着物。
誰もいなかった、この不思議な道にいきなり現れたその人は、最初のロボットみたいな人たちのようではなくて、スキップするみたいにして近くの小さな店のような場所に入っていった。

「…。」

私は立ち止まったまま考えてみた。

(ロボットみたいな人たちとは違う!…でも私たちみたいに、迷った人、って感じじゃない…。もしかして、私たちがここで迷った原因、みたいなのを作った人かも…)

そのとき私を撫でるような小さな風が吹いた。
するとまた気づくと、私の体は吸い寄せられるように勝手に、今誰かが入っていった店の前まで移動していた。

「……。」

私は覚悟を決めた。
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