その街は幻
カラカラカラ…

誰かが入っていった、店らしきすりガラスの戸を開くと、そこは小さな駄菓子屋さんだった。

「ようやく来たか…待ちくたびれたぞ?」

声がしたので見ると、店の中にある小さなイスに、さっきの着物の人がキツネのお面をして、こっちを見て座っていた。

「…。」

「なかなか入って来ないのでな、こちらから呼んでやったのだ。どうじゃ?」

男の人とも女の人とも取れる中性的な声で、私に向かって話しかける。

「…あ、あなたは…だれ…ですか……?」

お面を付けているから表情は見えない。そのうえ喋り方も、ひょうひょうとした感じで、他の感情も分からない。

「おや、これでも恐ろしいか?人の姿を模してやったというのに。」

やっぱり人間じゃないんだ…。
それに、怖いに決まっている。私たちを閉じ込めたのは自分だと言ってるようなものだし、そんな人(?)に話をして、この街から出してもらえるか分からないし…

「怖い…です……あなたがこの街に閉じ込めたのなら…。あなたは、誰ですか…?…何で私たちを…?」

それを聞いたその人は、私の不安な様子もなんでもないという感じで言った。

「何だ、そんなことが恐ろしいか。それはな、お前たちを取り込んで、この街を生まれ変わらせるためじゃ。」

「え…!?」

この人は何でもないことのように言った。

私たちを『取り込む』って……

「見たであろう?あの、表情を失い、行き場を失った人形たちを。」

(…最初にいた、ロボットみたいな人たちのことかな…)

「あれらは我が作った抜け殻たちじゃ。この街が『死ぬ』前にいた人間たちを模した、な。彼らは自分の意思も忘れ、寝て起きて働く、それだけの為にこの街に居た。『生きていた』のでは無い。そして街から徐々に去り、誰も居なくなり、忘れ去られた。」

「…。」

忘れ去られた街。ただ街にいただけの人間を模した人形たち…
だから生き生きとした感じがしなかったんだ…

「我は、この『地』。人間が住み始めた頃からここを見守っていた。お前たちをこの街に取り込み、もう一度、ここを生きた街にする。」

信じられない、あまりにも突然で強引。
この人は私達の気持ちなんて考えていない。考えているのは、この街のことだけ。

「そんな…!!私たちは生きてるけど、この街にいさせたからって『生きた街』にはなりません…!それに私もきさらぎさんも、別の街の人間だから……」

「人間さえいればどうにでもなる。道理から外れてしまったこの街を戻すために、我は手段など選ばん。」

歪んだ気持ちだけが渦巻いたこの『街』…

「そんなの勝手過ぎます!!」

私は思わず大きな声で言った。
でも、その人はまたなんてことない様子で返した。

「勝手であろうと我には関係の無いこと。どこへ逃げようと、この街から逃げられはせん。」

分かってくれない。このままじゃ私もきさらぎさんも、この街に閉じ込められて…
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