その街は幻
私は店を飛び出して走り出した。
きさらぎさんを探すために。早くきさらぎさんと、ここを出るために…


『馬鹿な女子(おなご)じゃ。逃げられはせんと、いうておるのに。』

走る私の耳に、さっきの人の声が入ってくる。

「っ…会わせてっ…!!きさらぎさんにっ…会わせて下さいっっ…!!」

私は走りながら、必死でお願いした。

『あの人間か?会わせたら、逃げおるつもりじゃろう?』

「きさらぎさんとっ…はあはあ……会わせてくれるならっ…逃げませんっっ…!!」

でも、あの人の平然とした答えが帰ってくるだけ。

『せっかくの人間を見過ごすほど愚かではない。下手に動くならばそのまま取り込んでくれよう。』

私は急いで足を止めた。それから呼吸を整えて、見えないあの人に向かってまた言った。

「っ……街に住む人が気持ちを持たないなら、今いる人形さんたちと同じだと思いますっ…!それに人間にとってもきっと、良い街にはならないと思います!!住みたいって思ってくれるように、来てくれた人たちと相談して、協力し合って住んでもらった方がいいです!!それを、人を街に勝手に閉じ込めるなんて…!!」

こんなに大きな声で誰かに何かを言ったのは初めてだった。

でもあの人は全然聞いていない。

『分からぬのう。もう良い、取り込むとするか。』

「待って…!!」

私がそう言う間に目の前が歪む。立っていられずガクッと力が抜けて、歪んでいる感覚の地面に膝を付いた。

「っ…や……」

体に冷たいものがまとわりついていく気がした。

(…冷たいのは地面…??私、このままこの街に溶かされて……)


めまいがして意識が遠くなっていく最中、

『何…!?』

突然あの人の声がして私は、周りの歪みと、体に何かがまとわりつく感じが無くなった。

気付くといつの間にか出来ていた、ゼリーのみたいに歪んだ壁のような空間に向かって、人形さんたちが歩いて行くのが見えた。

「気持ちを考えない『街』になんて、誰も居たくはないんじゃないかな…?例えそれが、自分が作った人形だったとしても。」

「きさらぎさん…!!」

きさらぎさんはいつの間にか私の近くにいて、すぐ送ってそばに来てくれた。

「大丈夫!?ミカちゃん!」

「はい…。」

きさらぎさんはまだボーッとする私を見てから、見えないあの人にまた言った。

「彼ら、出て行くつもりみたいだ。この街が忘れ去られる時みたいに。…まさか、連れ戻して取り込むなんて言わないだろ?」
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